荒牧まちかど探検(9)

荒牧町字台所


 人には一人ひとりに名前がついているように、土地にもさまざまな地名がつけられている。この地名は、古来人々の会話の中から生まれ、後に文字が当てはめられたものが多い。荒牧町の地名は、土地の形状や特徴、人々の生活とのかかわりなどから付けられたと思われるものが多い。
 前橋市老人福祉センターから北に向かって台所南、台所、台所北、台所東という興味深い地名がある。この地名は、明治十年政府の通達により編纂された「上野国郡村誌」の中の「上野国勢多郡荒牧村」の項に、「‥‥台所ハ村ノ西南ノ方ニ位ス西ハ群馬郡川原島新田接シ北ハ字台所北ニ隣リシ‥‥」とある。「台所」、「台所町」は全国的にはあまり見られない。
 角川書店発行の「角川日本地名大辞典」によると、東京都や秋田県などに台所町がある。この町名は江戸時代、調理に関係した人達の屋敷町から始まったとも言われる。一方、アボック社出版局発行の「新日本地名索引」第一巻に宮城県古川市や長野県小谷村などに「台所」が見られ、清水が湧き出していたような土地であるという。
 また、隣りの川原町の小字「台」に大興寺という由緒ある寺がある。この一帯は高めになっていて、荒牧町台所との間の低地に水田地帯があった。台という地名は沢山ある。荒牧町台所は、少なくとも調理人達の町であったとは考えにくい。
 かって利根川の河床であったが、土砂が周囲より高めに積もり台状になったのが台所の地名の由縁であろうという考えもある。また、先輩方の話によれば、この辺りはずっと池や湿地があり、大雨の後にかなり湿ってくる土地もあることなどから、水に関係のある「台所」という地名になった言い伝えがある。
 こうした地名と考えて良いのではないかと思う。